赤穂の昔話・第16話「恋ヶ浜」(上)
2020年06月13日
二人は、お互いを好きになりましたが、厳しい身分制があり、結婚など許されるはずがありません。そこで、二人は手に手をとって岡山から逃げ出したのでした。二人は、塩田の干拓が始まって、たくさんの人々が移り住むようになっていた赤穂へ行こうと決心しました。
二人は、移住してきた人たちによってできた西浜の鳥撫村に着きました。富造は塩田開拓の人足として、千代姫は人足たちの食事の用意と後片付けをする下働きとして働きました。千代姫は今まで働いたことなどありませんでしたが、愛する富造のためと思い、一生懸命に働きました。
貧しいながらも幸せな毎日を送っていましたが、千代姫があまり食事をとらず、少しずつやせて弱っていることが気がかりでした。そこで、富造は休みの日には綱崎の浜で魚を釣り、千代姫に食べてもらいました。富造が釣ってきた魚だけは千代姫も「おいしい、おいしい」と言って食べました。そのため、富造は仕事のない日は必ず釣りに行くことにしました。
秋の、ある日のことです。仕事が休みなので、富造はいつものように釣りに行こうとしました。ところが、この日に限って、千代姫は釣りに行くことを反対しました。
「きょうは天気がどうもおかしいようです。きょうは行かないでください」
空を見上げると、低い雲が西のほうへ流れています。天気が悪くなる前触れです。でも、富造にとって自分が釣ってきた魚を千代姫がおいしそうに食べるのを見るのが大きな楽しみでした。
「大丈夫だよ。おいしい魚を釣って帰ってくるから」
富造は綱崎の浜へ出掛けていきました。(つづく)=切り絵・村杉創夢
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2020年6月13日(2374号) 2面 (4,244,493byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」 2022年05月21日
赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」 2022年04月29日
赤穂の昔話・第34話「竹筒で塩を作る人を見た」 2022年03月19日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下) 2022年03月12日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(上) 2022年02月12日
赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」 2022年01月29日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(下) 2021年11月27日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上) 2021年11月11日
赤穂の昔話・第30話「とんぼ塚」 2021年10月30日
赤穂の昔話・第29話「妙道寺の阿弥陀さま」 2021年08月28日
赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」 2021年07月31日
赤穂の昔話・第27話「蛸の足うまいか」 2021年07月17日
赤穂の昔話・第26話「熊見川の由来」 2021年06月27日
赤穂の昔話・第25話「節句の田んぼすき」 2021年04月24日
赤穂の昔話・第24話「鯰峠の伝説」(下) 2021年02月27日
コメントを書く