赤穂の昔話・第27話「蛸の足うまいか」
2021年07月17日
切り絵・村杉創夢
仕事も終わり、泥と汗にまみれた身体を洗おうと、浜辺におりると、烏石の上に大きな丸いものが見えました。それは大きな蛸でした。「グー、グー」という音が聞こえてきます。
「ハハーン、蛸が昼寝をしとるわい」
万五郎は急いで海からあがり、着物をきました。そして、草刈り鎌を握り、そろりそろりと岩に近づいていきました。
蛸はぐっすりとねむっています。その足は万五郎の背丈けほどもありました。しばらく様子をみていた万五郎は、やにわに、鎌を振りあげて、蛸の足を一本切り取りました。
万五郎は太くて長い、イボイボのついた足をかかえて、一目散に家に帰りました。その日の晩ごはんは、蛸の足の煮物と酢の物でした。そのおいしいこと、おいしいこと。まるでホッペタが落ちそうでした。
その次の日も同じように田んぼ仕事のあと、万五郎は浜辺におりました。すると、また蛸が同じ岩の上で昼寝をしています。ソーッと近づいて、また足を一本切り取って帰りました。
同じことが七日も続き、万五郎は蛸の足をとうとう七本も食べてしまいました。そして、八日目。今日は最後の一本だと朝から鎌を研いで、いつものように浜辺におり、いつものようにソーッと蛸に近づきました。
万五郎が鎌を振りあげた時です。蛸は大きな目を、ギョロッと見開き、
「…マンゴロウ…タコノアシウマイカ」
と、低い声で、つぶやくように言いました。びっくりした万五郎は、ドッスンと尻もちをついて、動けなくなりました。すると蛸はスーッと海に帰っていきました。
万五郎は、その晩から熱を出し、三日三晩うなされ、四日目に死にました。とむらいを出した近所の人は、万五郎の身体に、いっぱいイボイボが出ていたと話していました。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話』・「蛸の足うまいか」より)=切り絵・村杉創夢
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2021年7月17日号(2425号) 3面 (9,672,281byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
「昔話末永く語り継いで」切り絵作家・村杉創夢さん 2022年10月30日
赤穂の昔話・第38話「尼子山落城」 2022年10月29日
赤穂の昔話・第37話「きんこん坊主」 2022年07月16日
赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」 2022年05月21日
赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」 2022年04月29日
赤穂の昔話・第34話「竹筒で塩を作る人を見た」 2022年03月19日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下) 2022年03月12日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(上) 2022年02月12日
赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」 2022年01月29日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(下) 2021年11月27日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上) 2021年11月11日
赤穂の昔話・第30話「とんぼ塚」 2021年10月30日
赤穂の昔話・第29話「妙道寺の阿弥陀さま」 2021年08月28日
赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」 2021年07月31日
赤穂の昔話・第26話「熊見川の由来」 2021年06月27日
コメントを書く