赤穂の昔話・第10話「えん魔はん」
2020年01月11日
中陰の四十九日も終わり、おじいさんが死者の世界に行くと、そこにはえん魔大王が怖い顔をして一段高いところで見張っていました。
おじいさんは震えながら腰を低くし、えん魔大王の前に進みました。
「コラッ、おじい。お前は娑婆で何をしていたか」
「はい、えん魔はん。わしは役者で、ジョロリをかたっていたんだす」
「なに、ジョロリ? それはおもしろい。それならここで語ってみよ」
おじいさんは、さっそく語ろうとしましたが、いつも高座でしていたので、低いところでは、なかなか声が出ません。
「えん魔はん。ここではできまへん」
「なに。ここではできない? わしの前では、できないというのか」
えん魔大王の顔は、ますます恐ろしくなりました。
「いや、えん魔はんの前でもできます。いつも高座でしよるから、高座でないと語りにくいんだす」
「それではおじい。わしと代わってやる。ここに上がれ。さあ、上がれ」
おじいさんは、えん魔大王と入れ替わって高座に上がり、ジョロリを語り始めました。そこへ地獄の鬼が大勢やって来ました。鬼たちは高座の下にいるえん魔大王を死者と思い込み、地獄に連れて行ってしまいました。
驚いたのはおじいさんです。高座から下りることができず、えん魔大王として、そのままそこに座り、亡者を裁くようになりました。
娑婆では、このことが広まり、えん魔大王の前で「尾崎の者や」と言うと、この世に戻されたり、また、極楽に行かせてもらえるということです。(赤穂市教育委員会刊『赤穂の昔話 第二集』・「えん魔はん」より)=切り絵・村杉創夢
<前の記事 |
掲載紙面(PDF):
2020年1月11日号(2355号) 2面 (7,617,693byte)
(PDFファイルを閲覧するにはこちらからAdobe Readerを入手してください。)
[ 赤穂の昔話 ]
「昔話末永く語り継いで」切り絵作家・村杉創夢さん 2022年10月30日
赤穂の昔話・第38話「尼子山落城」 2022年10月29日
赤穂の昔話・第37話「きんこん坊主」 2022年07月16日
赤穂の昔話・第36話「横谷の八畳敷き」 2022年05月21日
赤穂の昔話・第35話「大蛇と入電池」 2022年04月29日
赤穂の昔話・第34話「竹筒で塩を作る人を見た」 2022年03月19日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(下) 2022年03月12日
赤穂の昔話・第33話「ととまの地蔵」(上) 2022年02月12日
赤穂の昔話・第32話「枯れ尾花」 2022年01月29日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(下) 2021年11月27日
赤穂の昔話・第31話「東海山の観音様」(上) 2021年11月11日
赤穂の昔話・第30話「とんぼ塚」 2021年10月30日
赤穂の昔話・第29話「妙道寺の阿弥陀さま」 2021年08月28日
赤穂の昔話・第28話「猫岩の狐」 2021年07月31日
赤穂の昔話・第27話「蛸の足うまいか」 2021年07月17日
コメントを書く