「青春時代の忘れ物」小説出版の夢 卒寿過ぎて実現
2026年09月12日
かつて作家を夢見た男性が、青春時代に書いた作品を自費出版。自分の本を出版する夢を70年越しに叶えた。

日本郵船時代の岩野武彦さん=23歳ごろ=
加里屋の岩野武彦さん(92)。国立児島海員学校を卒業して1952年、18歳で日本郵船に入社。主に外国航路の甲板員として世界中の主要港と日本を往来した。中学生の頃から読書好きだった岩野さんの将来の夢は「作家になること」。長期にわたる航海中、二段ベッドの足元にある小机に原稿用紙を広げて文を書くのが日々の楽しみだったという。
休暇を利用して雲仙を旅したときの出来事をベースにしたフィクション「直子」は、23歳で書いた処女作で、全日本海員組合の機関誌に掲載された。しかし、その後に筆をとったいくつかの作品はいずれも未完に終わり、作家になる夢はそのまま遠のいた。
岩野さんは29歳で会社を辞めて赤穂に戻り、その後にぎわいを増していく播州赤穂駅近くに「喫茶館ラタン」を開業。赤穂美術協会の会員らが描いた絵画を店内に展示してギャラリー喫茶として人気を博し、2000年に閉店するまで多くの人たちに愛された。
岩野さんが数年前、大切に保管していた船員時代に書いた手書きの原稿用紙を読み返していたところ、家族が活字化を提案。パソコンで文字を打ち直してデータ化されたことで、書籍化の道が一気に開けた。処女作「直子」をはじめ、20歳のころに習作として書いた「ニューヨーク航路」など4編を収録したA5判、262ページ。ハードカバーの色は海を表す紺碧にした。
喫茶店を経営していた頃には兵庫県喫茶組合の副理事長兼広報委員長として組合の機関紙「喫茶ひょうご」の発行に20年近く携わり、「呻吟しながら『書く』楽しみを趣味として終生持てたことを嬉しく思います」と人生を振り返る岩野さん。卒寿を過ぎて夢が実現したことに「青春時代の忘れ物を取り戻せた」と穏やかに語る。
50部発行し、非売品。赤穂市立図書館にも一冊寄贈する予定という。

岩野さんが大切に保管していた原稿
[ 文化・歴史 ]
掲載紙面(PDF):
2026年9月12日号(2659号)2面 (8,027,553byte)
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