2026年02月28日
赤穂市民病院在籍中に起こした医療ミスで業務上過失傷害罪に問われている松井宏樹被告(47)の裁判が神戸地裁姫路支部で結審したことを受け、被害患者の家族から公判で述べた意見書が赤穂民報に提供された。
医療ミスから現在に至るまでの経緯や心情が率直に述べられており、2週に分けて全文掲載する。
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私は、本件の被害者の長女です。2020年1月22日、母の手術で悲惨な医療事故が発生してから6年余りが経過しました。事故直後から私たち家族の時計は止まったままです。前へ進みたくても進めず、だからといって手術前に時間を巻き戻すこともできません。
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一瞬で奪われた
平穏幸福の日々
本件の医療事故に遭うまで、私たち家族は自然豊かな山の上で小さな幸せを感じながら暮らしていました。
母は誰よりも早起きで、朝日の当たるリビングで珈琲を飲みながら小説を読んだり、犬たちが走り回るのを眺めたり、家族と会話することを楽しんでいました。母と私には温泉旅行やグルメ巡り、ライブ鑑賞という共通の趣味があり、ほぼ毎日一緒に出かけていたため、周りの人から、「仲の良い姉妹みたいやね」と言われることも多かったです。
しかし、そんな日々は、被告人の手によって一瞬にして奪われました。
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手術急ぐ必要
なかったのに
本件の手術が行われたのは、被告人から手術をした方が良いと言われてから、わずか5日後でした。
後で分かったことですが、実際にはそこまで急がなければならない手術ではありませんでした。被告人の説明で、早くしないと人工透析になるかも知れない、という不安と焦りに駆られたことと、「よくある簡単な手術です」とか「帰るころにはスタスタ歩けるようになっています」という自信に満ちた被告人の言葉を聞いて、母と私は、被告人を信じて手術をお願いすることに決めたのです。
入院当日の朝、母は急に「手術したくない」と言いました。しかし、私は、既に手術の段取りをしていただいているのに申し訳ない、という気持ちから、半ば強引に母を説得して入院させてしまいました。本件の医療事故から6年余り、この朝のことを思い出さなかった日はありません。母に手術を勧めてしまったことは、悔やんでも悔やみきれず、一生後悔の念が消えることはないと思います。
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余りにも稚拙な
被告の手術技量
当初、私は、本件は最善が尽くされた結果の過ちだと思っていました。被告人の脳外科医としての将来を考えたとき、事故が公になってしまうのは不憫だと思っていました。しかし、手術動画を見て、そんな思いは無くなりました。
手術動画には、血の海の中に、何処を削っているのかもわからない状態でドリルが突っ込まれている様子が映っていました。目を閉じて骨を削っているのと変わらない、余りにも酷いと思いました。素人目に見ても、あれでは神経切断事故が起きて当たり前だと思います。被告人に安全に手術ができる技術があったとは思えません。あんなに自信満々に「よくある簡単な手術です」と説明をしていたのにです。
人の身体にメスを入れることを軽視していなければ、上手くいかなくても、失敗しても構わないと思っていなければ、あんな乱暴なことはできないと思います。母は、被告人の手術の実験台にされたとしか思えません。それだけでも本当に許せません。
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身体だけでなく
心も傷つけられ
それにもかかわらず、本件の事故後の被告人の言動は、誠実とはかけ離れたものでした。言葉での謝罪はあったものの、心からの反省は全く感じられませんでした。
例えば、事故から2か月が経過したころ、被告人は、死に物狂いでリハビリを頑張っている母に対して、突如「一生車椅子です」と言い放ち、絶望の淵に突き落としました。
また、被告人は、手術後母をろくに診察することもせず、「回復不能は手術とは関係ない」とか「痛みは手術によるものではない」といった、自分の責任を否定するかのような無責任な発言を繰り返すようになりました。被告人自らが提案した面談の約束を何度も反故にされたりもしました。とても自分が本件の医療事故を起こしたことを反省している言動には思えませんでした。
2021年8月に、本件についての民事訴訟を提起しました。
かなり悩みましたが、病院で、被告人が関与した重大な医療事故が複数発生したにもかかわらず、正式な検証もされず、再発防止策の説明もされなかったので、このまま示談をすれば、本件を含めすべてが無かったことにされてしまうかも知れないと思い、訴訟提起することにしたのです。
また、医療従事者から「示談せずに事故を公にしてほしい。一番に立ってほしい。お母さんが生きていてくれるから示談や和解の話になるんです。でも、亡くなった人は何もできないんです。こんな事になって本当に悔しい。松井先生を野放しにしてはいけない。刑事告訴してください」といった、切実な要望があったことも訴訟提起を決断した大きな理由です。
被告人は、民事訴訟でも、A先生(編集部註・赤穂市民病院脳神経外科の科長。松井宏樹被告の上司であり、本件医療ミスが起きた手術に助手として参加した)に事故の責任を押しつけるような主張や、辻褄の合わない主張を繰り返し、母や私が言ってもいないことを言ったと主張するなど、多くの嘘をつき、母の身体のみならず、心まで何度も何度も傷つけました。
提訴から2年余りが経過したころ、裁判所から和解の勧試がありましたが、被告人の不誠実な訴訟態度からは、反省のかけらも感じられなかったため、和解には至りませんでした。【※後編に続く】

医療ミスの約9か月前の2019年4月に撮影された被害患者女性。慢性的な腰痛はあったが、日常生活に支障はなかった=家族提供
掲載紙面(PDF):
2026年2月28日号(2634号)1面 (6,292,039byte)
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