赤穂民報

【社説】科学的根拠ないワクチンデマは社会悪(8月28日)

 科学的根拠なく「新型コロナウイルスワクチンは危険」とする、いわゆる「デマ」が横行している。それを信用してワクチン接種を拒否する人がいる。その結果、コロナで重症化する人、後遺症が残る人、亡くなる人が生じる可能性を考えればデマは社会悪だ。

 デマの主な例を検証してみた。

 まず、「ワクチンが卵巣に大量に蓄積して不妊になる」という誤情報。このデマの元になっているのは、ワクチンの有効成分のmRNAを封入している「脂質ナノ粒子」(LNP)の成分が卵巣にも分布したと記載しているファイザー社の動物実験結果だ。

 動物実験ではファイザー社、モデルナ社のワクチンとも、接種したラットが問題なく妊娠・出産したことが確認され、生まれた子にも異常はなかったと報告されている。LNPが分布した量は投与部位が最も多く、卵巣で検出された量は総投与量の0・1%未満だった。「大量に蓄積」というのは正しくない。

 また、アメリカでワクチン接種後に妊娠した女性827人について経過を調べた研究では、接種した人の流産率が自然発生の流産率を上回ることはなかった。厚生労働省は「新型コロナワクチンには、排卵や妊娠に直接作用するホルモンや、卵巣や子宮に影響を与えることが知られている化学物質は含まれていない」とワクチン不妊説を否定している。

 「ワクチンで人口を削減しようとしている」というデマの火元は、2010年にビル・ゲイツが講演したときの「新ワクチンや保健医療、生殖関連で十分な成果を納めれば、(世界人口の増加を)おそらく10〜15%抑えることができるかもしれない」との発言だ。

 講演の前後を聞けば、主にアフリカなどの開発途上国において乳幼児の死亡率が高いが故に出生率が高い「多死多産」となっている現状を踏まえ、ワクチンで乳幼児を守り不安を取り除くことによって人口増加を抑制できる、との主張であることは明らかなのだが、講演の一部だけを切り取って本来の主旨と異なる解釈をこじつけている。

 他にも、「ワクチンでコロナに感染する」「マイクロチップを埋め込まれる」「遺伝子組み換え人間になる」などと次々と流布されてきたが、いずれも根拠がなく虚偽だ。かつて、牛痘から開発された天然痘の種痘(ワクチン)について、「種痘をすれば、牛になる」というデマが広まったのに似ている。

 常識で考えれば嘘だとわかるようなデマなのに、なぜ信用してしまうのか。

 一つには、インターネットで自分の興味関心のある情報が自動的に提示される機能が影響していると言われている。例えば、ネットで「反ワクチン」の動画を視聴すると、テーマが類似した動画が次々と表示される。「フィルターバブル」(泡の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなる状態)が続いた結果、極めて視野が狭まり、「やっぱり自分の考えは正しい」という錯覚に陥るのだという。

 さらに、公的機関の統計を曲解してワクチンの危険性をアピールするといった手の込んだデマもある。「ワクチンは本当は危険なのに、みんな騙されている。自分たちだけが真実を知っている」と思い込んでいる人は容易に騙され、正義感から家族や友人などに広めている構図がある。

 そんな中、ワクチンデマの発信者らは一定の支持を集め、オンラインセミナーの参加料や書籍、サプリメントの販売などで利益を上げているという。

 米英を拠点とするNGO「デジタルヘイト対抗センター(CCDH)」の調査によると、その収益は年間3578万ドル(39億円超)に上るとされる。今年2月1日から3月16日までの間にフェイスブックやツイッターで世界に発信された81万件を超えるワクチンデマについて出所を追跡すると、65%がわずか12人の反ワクチン運動家から発信されていたという。

 日本でも、反ワクチンを主張するSNSやブログをたどれば、有料サロンや投資の勧誘に行き着くことが多い。もし、利益のために意図的にデマを送り出しているのであれば、もはや犯罪行為と言ってよい。

 健康体に劇薬を投与するワクチンへの不安は理解できる。実際に過去には、ジフテリア予防接種による健康被害(1948〜49)、MMRワクチンによる無菌性髄膜炎(1989〜93)といった薬害が日本で発生している。また、子宮頸がんワクチンは「接種後に痛みや運動障害を起こしたケースがあった」として、2013年に国が「積極的な接種勧奨の一時中止」を決めた。フィリピンでは2016年、デング熱ワクチンの接種後に子どもが死亡するケースが相次ぎ、ワクチンの使用を中止した事例がある。

 だからと言って、新型コロナワクチンも危険だとするのは短絡だ。ワクチンの副反応や安全性、有効性については今後も新たな検証結果を注視していくべきだが、科学的な根拠のない情報で判断するのは間違っている。ワクチンを接種しなければ副反応のリスクや不安は回避できるが、一方で感染した場合のリスクは大きい。ある医療従事者は「コロナワクチンを打たないのは、『誤作動すると危険』とエアバッグをつけず、『首に巻き付くかも知れない』とシートベルトをせずに車を運転するようなものだ」と例えた。

 先日、読者から「民報さんはワクチンの接種予約について記事を書いていますが、ご自分はワクチンの危険性を知っているから接種しないそうですね」と言われた。これも嘘だ。筆者(51歳)は8月10日に姫路の大規模接種会場でモデルナ製ワクチンの2回目接種を終えた。デマが広まるといけないので、はっきり否定しておく。

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