赤穂民報

【社説】目先の面子ではなく美術館の信用守れ(6月17日)

 赤穂市立美術工芸館の平成28年度特別展へ向けられている疑義について、同館の検証は不十分と言わざるを得ない。
 まず、「贋作もしくは真筆とは断定しがたい物が多数含まれている」と指摘された河野鉄兜の遺墨について。担当学芸員によると、展示品30点について印譜集との「印合わせ」を行ったところ、半分ほど検証した時点で、印文や字形が同じにもかかわらず、「印影にずれがあるものがいくつか確認された」という。
 一般的に「印影にずれ」があれば「偽印=贋作」と疑われるが、同館は「同じデザインの印を複数使っていた可能性もある」と結論付け、「これ以上検証しても意味がないから」と残りの作品の検証を打ち切った。不都合な事実が確定的になることを避けているようにしか見えない。
 また、「同号異人の作品を展示している」と言われた河野東馬の滝図短冊(今号3面に関連記事)についても、2月に本紙が取材した時点で当時の館長が語った「最大限の努力」で調査したとは言い難い。
 そもそも、この特別展は準備段階での調査研究や検証、確認も万全だったとは認めがたい。作品の所在調査をする上で、いの一番に問い合わせるべき鉄兜・東馬兄弟の出身地である姫路市への確認すらしていないからだ。もし、それを怠っていなければ、今回の疑義のほとんどは回避でき、しかも、より充実した展示になっていたはずだ。同館によると、「約3年間かけて準備した」というが、その間、準備の進捗状況をどのようにチェックしていたのか。運営管理体制も見直す必要がある。
 同館は「再調査が必要」として販売を休止していた特別展図録の販売再開を近日中に判断するという。「今回の指摘を踏まえ、今後はさらに十全の準備を心掛けたい」(同館)としているが、まずは一連の疑義に対してしっかりとした検証を行い、真贋や作者があいまいなものはその旨を明らかにした上で図録の販売を再開すべきだ。
 一連の疑義を最初に指摘した前嶋第誓氏は「公的機関の展示や図録は、その後の真贋判定の基準にもなる。それだけに事前に十分に調査を行い、その信ぴょう性を念入りに精査検討しなければならない」と主張する。
 本紙も同感だ。目先の面子ではなく、公的美術館としての信用を守ってほしい。

カテゴリ・検索
トップページ/社会/政治/文化・歴史/スポーツ/イベント/子供/ボランティア/街ネタ/事件事故/商業・経済/お知らせ

読者の声
社説
コラム「陣太鼓」
絵本の世界で旅しよう
かしこい子育て
ロバの耳〜言わずにはおられない
赤穂民報川柳
私のこだわり

取材依頼・情報提供
会社概要
個人情報保護方針

赤穂民報社
analyzer