赤穂民報

【社説】治水とは真逆の愚行 行政は立ち位置戻せ(11月21日)

 山腹崩壊危険地区を含む土地で進められようとしている御崎のメガソーラー建設計画には土砂災害の危険性が高まることへの不安がぬぐえない。
 予定地は地元の人たちが「万五郎谷」と呼ぶ高さ50メートルほどの里山にある。万五郎谷から三崎山にかけての斜面一帯は昭和47年までに土砂災害警戒区域に指定された。その2年後の49年7月には台風の大雨で一部の斜面が崩落。土砂に埋まった70代女性と4歳女児が辛うじて一命を取り留めた。
 昭和50年ごろ、地元からの強い要望を受けた県が山すそに擁壁を整備。県光都土木事務所によると、平成10年度から11年度にかけても追加整備を行ったという。
 しかし、住民の話では、大雨が降れば排水路から水があふれる状況は擁壁後も変わらず、予定地から西へ延びる谷筋にあたる細道は道全体が川のようになるという。今年8月の大雨では土砂災害警戒区域ではない場所にもかかわらず、人家のすぐ裏の斜面で小規模な土砂崩れが発生した。大雨が降りそうになるたびに親族宅に身を寄せる暮らしを続けている人もあるという。
 こうした経緯や現況を鑑みれば、予定地の周辺一帯は擁壁工の追加整備を今すぐにでも実施し、保水力を高めるための緑化を進めるべき場所だ。樹木を伐採して太陽光パネルを設置するという今回の計画は、本来とるべき治水対策とは真逆の愚行と言わざるを得ない。
 事業者は排水対策として小堰堤や配管を設置する計画を立てているという。しかし、そうした土木工事自体が、また新たな災害リスクを生むことはないのか。事業主の「サンエース」(大阪府枚方市)は予定地が山腹崩壊危険地区を含んでいることや土砂災害警戒区域に隣接していることを住民に指摘されるまで把握していなかった。工事施工者の「フジタ道路大阪支店」(大阪市北区)は「山に太陽光発電施設を施工した経験はない」と話しており、住民の不安は募る一方だ。
 県は「事業を中止させる権限はない」と言う。しかし、浸水被害を発生させる可能性が高まる開発行為に対して必要な対策を講じるように指導する権限と責任はある。いくら対策を講じても浸水被害発生の可能性を低減できないのであれば、事業者が自主的に事業を中止するように指導するべきだ。
 また、県は「行政は公正中立でなければならない」とも言う。しかし、本件に関する県の対応は、地方自治法が「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本」とするように定めている本来の立ち位置からは、ずいぶん事業者側に偏っているように見える。
 赤穂市は「市には権限はない」とだんまりを決め込むのではなく、住民に最も近い地方公共団体として、市民の声を事業者にも県にもぶつけるべきだ。もしも、「県とのパイプ」なるものがあるのなら、その存在を今こそ示してほしい。
 土砂災害は家屋や財産、そして命を奪い去る恐ろしさがある。たとえ、災害の原因を作った事業者や適切な指導を怠った行政が責任を持つとしても、失われたものは元通りには戻らない。かけがえのない命や家の代わりとして賠償金が支払われるのが関の山で、そのために何年もかけて裁判を争わなければならないことだってある。不安があるのなら、後の祭りにならないように今のうちに言っておく必要がある。

(伐採が進められている御崎のメガソーラー建設予定地(11月19日撮影))

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